拉ノ刻15周年

名古屋市営地下鉄本陣駅から徒歩5分ほど(中村日赤駅からもほぼおなじくらい)の立地にあるらーめん専門店拉ノ刻がこの9月で創業15周年を迎えた。

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1年もたないどころか2~3ヶ月で閉店という例もままあるこのラーメン業界の中に於いて3年続けばまず立派と考えているが、その5倍の15年を迎えたことは誠にめでたいし希有なことである。

とはいえ、もう15年も経ったのか、というのも率直な個人的感想であり、自分が‘ら巡り’を始めて5年ぐらい経った頃の話でもあるのでまだ記憶に新しい。

拉ノ刻はいまや多彩な限定を矢継ぎ早に繰り出すお店でもあるのだが、好来系のお店としてその歴史をスタートさせている。

好来系とは楓彰氏が昭和30年代に屋台からスタートさせた好来というお店の出身の一群のお店の総称およびそのお店群が提供する薬膳らーめんと呼ばれるラーメンの呼称だ。

鶏ガラ、豚骨、野菜にムロアジ等をベースにしたスープはあっさりながらも独特で、食べ慣れないと物足りなさを感じるかもしれない。

そこに太めの麺と太いメンマ、巻チャーシュー4枚というのが基本形。

さらにトッピング等のグレードで松、竹、梅と呼び分けられるメニュー名や、卓上調味料アイテム(胡椒、ラー油、ガーリックパウダー、高麗人参酢)、金ざるを4つに区切った麺茹でざる、前払いの食券札、等々、独特のアイテムやシステムが特徴なのだが、長年の間に今やこの辺りはすっかり店によって変容しつつある。

2000年代初めぐらいの時点では10店舗超ぐらいのお店が存在し、それぞれがそこそこ長い間営業を重ねていたのだが、一時引退していたかのようにみえた創業者の楓氏が、好来に復帰して好来道場と改称(それまで好来を任されていた方は本山で太陽を創業)する前後あたりに、さらにたくさん暖簾分けのお店が増えたという印象がある。

拉ノ刻はその先陣を切るあたりの2004年9月オープンであった。修行は2~3ヶ月程度だったと聞くが、楓氏やそのお弟子さんから直接学んだ直系である。

修行は辛かった、と店主の田中氏は語る(笑)。

オーソドックスな好来系らーめんの提供からスタートした拉ノ刻だが、その翌年の夏にはおやっと思うメニューを提供する。

今に至るまでの夏の定番メニュー「快涼麺」である。

当時はまだこの地方では冷たいラーメンといえば冷やし中華系のそれが出てくる確率が多かった時代であるが、その時点で冷たいスープにオクラのジュレや凍らせたプチトマトをのせた創作味の強いメニューを出してきて驚かされた。しかも美味しい。

快涼麺(2017年ver.)

快涼麺(2017年ver.)

さらには、基本の好来系も醤油、塩、味噌の三味を揃え、つけ麺や台湾等も提供。イカ墨ワンタン麺などという限定メニューも出したり、他の好来系とは一線を画す存在になっていった。

岐阜に支店を出したりしていたのもこの頃か。

実は個人的にはこの時期辺りは足が遠のいていた。特に具体的な理由はないのだが、個人的な居住地からはかなり距離があったというのが一番大きいかな。

だが、今から5年前、久々に訪れて「濃厚鶏白湯」を食べてグッと惹きつけられ、一層興味が湧いた。個人的には鶏白湯はあまり得意でない方だったのだが、かなり美味しいと感じたし、この鶏白湯は積極的に食べたいと思った。

その翌年あたりから煮干しを扱った限定を連発するようになり、それはやがて毎月21日に「煮干しの日」として定着する。

毎回違った趣向でいろんな煮干しを使った限定を提供するので、通わざるを得ない。住んでる所から遠いなどと言ってはいられなくなってしまった。

またそのネーミングセンスもなかなかイカしていた。「イカす恋煮干しつけ麺」「もっと危険な恋煮干し」「汚れのない恋煮干し」「ツンデレ恋煮干し」「ラブリアの恋煮干し〜思い出のアモーレ〜」「大人のビターな淡い恋煮干し」「鯉に焦がれた恋煮干し」等々。

ツンデレ恋煮干しラーメン塩

ツンデレ恋煮干しラーメン塩

店主の飄々としたキャラもありお店の居心地もよく、煮干しの日以外でも限定を挟み込んで来られたりすると月に何度も通う羽目になった。

煮干しの日は昨年からカレーの日となり継続中である。各種スパイスを使用する本格的なカレーを毎回作り出しており、カレーの日前後は店頭からスパイシーな香りが漂う。

そればかりか「らーめん専門店」と謳っておきながら、そのカレーを利用したカレーライスも頻繁に提供されるようになった。「ウチはラーメンしか出さないよ」と腕組みをするコワイ店主とは一線を画する柔軟性(一時はソフトクリームも提供していたっけ)が魅力でもある。

この9月は15周年イベントをいくつか行った。毎年周年イベントとは無縁だったが、やはりひとつの節目を感じたのであろう。

いくつかの限定が提供され、そして締めくくりにこの日曜日夜、普段は休業であるが、「呑ノ刻」として、ラーメンの提供なしでおつまみと酒類の提供だけでわいわいやりましょうということのようだった。

普段からこのお店を愛する常連さんが多数参加されるだろうし、遠慮しておこうかな、と思っていたのだが、ラーメン仲間から誘われ寄ってみることにした。

ガランドゥとも称された事もあったガラガラの店内に先客は2名で拍子抜け。この店は行列をなすこともままあるのに、こういう時もあるのでなかなか侮れない(どっちに?)

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特別に用意されたつまみを頼んで、15周年を祝して乾杯するうちにひとりふたりと常連客のみなさんがやってきて、そうこうするうちにまずまずの盛況ぶり。

らーめんの提供はないのだが、インスタントラーメンがいくつか用意されており、それをお店の丼で店主の調理で食すると美味しさがプラスされるようでなんだか有り難みを感じるのが面白い。

ゆるーい空間にみなさん居心地が良さそうだった。

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連発されるどれも魅力的な限定に心動かされる昨今だが、基本の好来系らーめんは最近リニューアルされてさらに美味しくなった。いや、びっくりするぐらい美味しくなった。好来系にあるまじき無化調化は既にいつか果たされている。

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 好来系は薬膳ラーメンと称されるが、その実、あまり根拠はないらしい。高麗人参酢が置かれていたりすることでそのイメージが定着してしまっているのだが。

しかし田中店主は自分なりの解釈で「身体に良いらーめん」を好来系に読み取り、それを具体的に実現しようとしている。無化調とかもその一端であろう。

これからも長く楽しめる美味しいらーめんを提供し続けて頂きたい。

改めて15周年おめでとうございます。

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らーめん専門店 拉ノ刻
名古屋市中村区上ノ宮町2-30-1 サンシャイン本陣1F
11:30-13:45,18:00-22:00(水金土-24:00)
日曜11:00-15:00