迷わず喰えよ、喰えばわかるさ ーラーメン二郎 三田本店(3)

(承前)

並び始めてから約30分ほどで遂に目の前に待ち望んでいたそれが登場。

予想していたよりずっと早く列が進んだがこれがたまたまなのかいつもこれぐらいなのかはわからない。

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ううむ、ビジュアルが独特。すべてが渾然一体となったようなデローンとした盛り具合がド迫力である。

すぐ次の番だった隣の席の人は「全マシ」コール。
いったいどんなものが出てくるのか興味津々だったが、自分のものとそう変わらない見た目で拍子抜け。
実はコールにあまり意味はないというような記述もどこかで目にしていたが、ホントにそうなのかもしれない。
初心者の方は特にニンニクのありなしを普通に答えるだけでもいいのではないか。

さて実食。
ヤサイが冷たいとか、麺がデロデロに柔らかいとか聞いていたが特にそんなことはなく、ヤサイはクタクタでもなくシャキッともしてないがとても食べやすい。麺も思ったほど柔らかくない。
あとでTwitter検索していたら常連の方がこのところ麺が変わったのではないかとつぶやいておられたので、そうなのかもしれない。

豚は勝手にホロホロと崩れる感じかと思っていたが、かなりしっかりした食感。そしてかなりカエシの味が染みこんでカラい。
これが山盛りのヤサイと麺を片付ける傍らに囓るとそこそこいい感じ。

量はやはり多いね。最後の二、三口はなかなかツラくなってきたが、なんとか固形物完食。豚マシにしたら自分は食べられないかも。

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いや、感想としては総じて良かった。

美味かったのかと言われればたしかに美味かったんだけど、なんていうのかな、そういうのとはなにか違うのよね。

達成感とか、充足感とか、この場でこれを食べるという喜びというか、そういうのが先に来る。

予測していたことは幾つかはその通りだったけど、違うことも多かった。やはり実際に食べてみないとわからないね。

行列に臆していたけど実際にはもっと待つことになる店は他でも沢山経験しているし、常連ばかりでアウェイな感じかと思っていたけどかなりウェルカムな雰囲気で初心者も別段怖がる必要はない。
作法的なものは特に必要ないし、前や横の人を見ていれば簡単にマネできることばかり。

食べ歩きを始めた頃に知り合ったラヲタの先輩であり達人である現ラッキーさんの名言、

「迷わず喰えよ、喰えばわかるさ」

はまさしくそのとおりだったな、と再確認した次第である。

二郎、というものに少しでも興味がある人は、機会があれば是非この本店の味を今のうちに味わって頂きたいと思う。

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行列に並ぶ ーラーメン二郎 三田本店(2)

(承前)

コインロッカー探すのに手間取ったりしてなんやかやと到着したのは既に10時前ぐらい。
慶応大学正門に突き当たり、左手を見るとすぐに行列が目に入る。

建物沿いに列が並びちょうど角で折れ曲がったあたりで接続。およそ16、7人程の外待ちか。

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外壁には翌週末に行われる総帥の喜寿祝い~生前葬パーティーのポスターが貼られていた。

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列に並んでいると、建物の入り口が二カ所あることに気付く。その二カ所からちょくちょく人が出入りしてまた列に戻ったりしている。

よく見ていると、前方の入り口に券売機があってなんらかのタイミングで先にチケットを買っているようだ。でも順番に整然と買われているようで列の乱れはない。

後方の入り口から出入りしている人は荷物をその中のどこかに置いているらしい。荷物置き場があるのだろうか。コインロッカー探さなくてもよかったのかな。

列がもう少し進んでその入り口から店内が見渡せて分かったことは、店内が予想以上に狭いこと、前方の入り口と後方の入り口の間の壁ギリギリにカウンターと席があり店内で行き来は出来なさそうなこと、よって厨房を囲む形で店内を半周するカウンターの左半分に座る客は前方の入り口から、右半分に座る客は後方の入り口から出入りすること、後方の入り口の右手にはトイレに繋がる階段がありそこに皆、荷物を置くならわしとなっているようだということなどである。

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ちゃんとした荷物置き場なんてものではなかった。コインロッカー探してまあ正解か。

前に並んでいる人が券を買いに行って戻ってきたので、続いて自分も列を離脱して前方の入り口に向かった。後で確認すると先頭からロットの分(4~5人?)ぐらいの人数になったら買いに行くというおよそのルールになっているようである。麺ゆでの際に事前に量を確認するためのことだ。

いろいろ増量するつもりはなかったので(というかムリは効かない胃袋になってきつつあるのを自覚しているので)、基本の「ラーメン 600円」を購入。青いプラスチックの札が落ちてきた。

いや、しかし600円だよな。いまどき600円で食べられるラーメン専門店は数少ない。

列に戻って待っているとやがて先頭から4人目ほどになったところで中のスタッフから声がかかる。

「食券みせてください」

前からひとりずつ確認していくのだが、4人目の位置では中から見えないので食券だけ中に向かって差し出す感じに。それでいいみたい。または「小」とか声で答えてもいいのだろう。

いよいよ席が空き、店内に迎え入れられる時が来た。
自分は後方の入り口すぐの角席であった。

外からも確認していたが、山田総帥の姿を改めて確認。麺上げしている!
古くからの常連さんと来週の生前葬について軽口を叩きながらにこやかで元気そうだ。

 いよいよコールの時だ。

コールとはラーメンの完成直前にトッピングの有無等を聴かれることを言う。「ニンニク入れますか?」に対して答えるいわゆる呪文である。

「ヤサイマシマシアブラブラカラカラ」うんぬんかんぬんと、これが初心者にとって二郎のハードルを高くしている原因のひとつである。

ただ今日見ている感じではここ本店ではとても丁寧に聞いてくれるので、それに対して自分の言葉で好みを伝えればいいような気がする。

「そちらの角の席の小ラーメンのお客さん、ニンニク入れますか?」と助手の方から聞かれたので

「ニンニク少しとアブラ」

と答える。

個人的には刻みニンニクがあまり得意ではない(というかニンニクに支配されすぎちゃうのが嫌い)ので、平日昼間でなくても入れないことが多いんだけど、やはりここでは入れるのがデフォだろうから少しだけ。

他の店ではヤサイもコールすることが多いんだけど、三田本店は量が多いと聞いていたので増量系は一切控えておく。ただアブラだけは味わっておきたかったのでコールした。

(続く)

 

宿題店に向かう ーラーメン二郎 三田本店(1)

宿題店。
ずっと行きたいと思っているというのは勿論だが、それよりも食べておかないと(体験しておかないと)という意味の方が濃いかもしれない。

自分にとっての最大の宿題店、それが。

ラーメン二郎 三田本店。

レジェンド中のレジェンド店である。

のれん分け、弟子筋、インスパイア系、あらゆる形態で全国に増殖する二郎系と一括りに呼ばれることの多いデカ盛りラーメンの総本山。

ラーメンの食べ歩きをするようになって、二十年程。その間、年に二~三回は東京で食べる機会があった。

ただ遠征時にこの系統はなかなか選べない。せっかく足を伸ばした土地では出来るだけ多くの店を訪れたいと思うのが人情で、二郎のような連食に向かないラーメンは敬遠してしまいがち。

だから上京して食べたことあるのは、高田馬場や池袋や富士丸などほんの一部。

名古屋には直系も弟子筋もなく(うどん屋である「さんすけ」を除けば)インスパイア系ばかり。

やはり総本山で食べておきたい。
総帥と呼ばれる三田本店店主、山田氏は喜寿を迎えるというお歳。お元気とはいうがいつまで店頭に立たれているかわからない。

そのお姿もこの目で見ておきたい。

そんな気持ちを抱きつつもそれを実行するタイミングを失し続けてきていた。

毎年2月に展示会視察の出張があるのだが、その機会に連泊して食べ歩きをするのがこのところの恒例となっている。

今年もその予定だったのだが、展示会視察中に腰を痛めるというアクシデントが。幸い軽症だったが、いつものように東京を歩き倒すのには不安が残る。
ホテルは取っていたので泊まるにしても翌日は早めに帰るとしようと、初日に出歩きやすい範囲で食べ歩きをして早めにホテルに帰って静養。

さて翌日。どこかで一軒ぐらい食べてさっさと帰ろうと思うも、およそラーメン店の開店は11時とか11時半。用意していた候補店も軒並みその時間が開店時間。
例年だったらそれまであちこち歩き倒して見学等で時間をつぶすのだが、今日はそれは避けたい。

となるといわゆる朝ラーが食べられる店を探してその中から選びましょうか、とネットを漁る。

さすが東京、名古屋だとそうはいかないが、候補店が十数店すぐに出てくる。

そのリストの最後の方に「二郎 三田本店 8時半~」というのを発見。
そうか、ここがあったか。

今日に関しては他に連食もするつもりもなかったので、量的にも何の心配もいらない。絶好のチャンスではないか。

早速チェックアウトして三田に向かう。
駅に降り立ってgoogleマップに従って店に向かおうとして、狭い店内だった筈で宿泊用の大きなカバンが邪魔になるのではとハタと気付き、コインロッカーを探し荷物を預ける。

かように断片的な知識だけはあれこれ長年の間に積み重ねてはいるのだが、果たして実際はどうなのだろうと、はやる心を抑えつつ改めて店舗に向かうのであった。
(続く)

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『嘘と正典』小川哲

『ゲームの王国』を読んでぶったまげ、遡って『ユートロニカのこちら側』を読んで伊藤計劃のアプローチより好みだなあと感心した小川哲。

自分にとってはもう何を読んでも面白いに違いない状態であるのだが、第一短編集が出たので早速読んだ。タイトルは『嘘と正典』。

六編の収録作のうち前半の四編がSFマガジン掲載作であるものの表面的にはあまりSFSFしてないのだが、その実、SF好きのハートをガッチリ掴む作品群だ。

「魔術師」は人気マジシャンが一世一代のタイムマシントリックのマジックを行うが...、という話で題材こそタイムマシンを取り上げているがテイストは中間小説よりの奇妙な味、といったところ。ミステリ系の雑誌に掲載されてても違和感を感じないだろう。

「ひとすじの光」は没交渉だった父が死んで唯一自分に残されたのが持ち馬であった駄馬だったのだが...、という所から始まる競馬小説。何故その馬が自分に残されたのかの意味を血統に絡めて探る。

「時の扉」は千夜一夜物語風の出だしからオヤッと思わされる展開に。
「ムジカ・ムンダーナ」は「ひとすじの光」の音楽版といった趣。

小品だが興味深い「最後の不良」を挟んで表題作の書き下ろし「嘘と正典」がやはりもっとも読み応えがあり、またSFの手法をがっつり使っている。
『ゲームの王国』でポル・ポト政権下の事象を魔術的リアリズムの手法で見事に眼前に再現させた作者が、共産主義の誕生を描く。

扱っている内容はけしてわかりやすいものではないと思うのだが、文章がこなれていて大変読みやすい。
大変な才能だと思うのだが、直木賞はこれをきちんと認めるだろうか。

嘘と正典

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化石好来系? ~さようなら、好好(2)

(承前)

今年中にその営業を終える「八事らーめん 好好」。

八事らーめんとあるが、場所は名東区の高針にある。創業時は八事に店を構えていたらしい。

その創業は1979年と聞くので、40年間にわたる営業だったということになる。
現在の地は幹線の一本裏の住宅地に近い裏道沿いである。まさにひっそりと佇むと形容したい店構えで、2階に住んでみえるのだろうか、店舗付長屋住宅の一角にある。

店のフロントガラスには大きなダブルジョイ(喜喜)のマーク。さらに橙色のテント看板が印象的だ。

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僕がこの店に初めて訪れたのは、積極的にラーメン情報を収集して食べ歩きをするようになった今から20年前である。

実はそれ以前にこの辺りに長く住んでいたし、たまにこの道の前を通ることもあったのだが、この店の存在は知っていたものの、若僧としてはその少し古ぼけた店のイメージに興味を惹かれなかったので入店したこともないし、ましてや好来系の店などと認識していなかった。引っ越した後に知ったことになる。

当時情報を収集していたラヲタの集うメーリングリストの猛者たちもこの店のことを気づいていなかった。まだラーメン本の類いもあまり出版されておらず、ネットの情報も掲示板等中心でブロガーなる人々もおらずホームページを持つ人も僅かだった頃である。

好来、好来軒、好陽軒、陣屋、好友軒、招福軒、みつ星、めんきち、好龍、味楽。このあたりが世紀が変わる前後のその当時、好来系としてラヲタに認識されていたところであろうか。まだ、好来は好来道場になる前で、創業者楓氏は一時隠居状態。現在の太陽が好来を任されていた頃だったかと思う。

伝説のラヲタ「だいけん」氏が、我々のコミュニティにこの店の情報をもたらした。
酒場で聞き知ったらしく、当時「ラーメン刑事」との異名もあっただいけん氏が早速突撃、お店に簡単なインタビューも敢行しこの店の成り立ちが明らかになったのだ。

「"好来"初代から教わった」
「(修行)年代的には好陽軒のご主人のあと,招福軒よりは前」
「はじめ八事で8年店を出した」
「昭和54年OPEN」(つまり高針に移転してきたのは87、88年あたりの平成になる直前ということ)

当時の名古屋ラヲタを取りまとめていたリーダー格の「げそ天」さんは、この好好や好友軒のように初期に好来から分岐し当時の味や雰囲気を色濃く残す店のことを「化石好来系」と呼んで分類した。

そしてその頃からこのお店の雰囲気と、お父さんとお母さんの二人三脚による営業は見た目には変わっていない。
だが変わらないようにみえても長い間のうちに移りゆくのが世の常。

 好来系としての好好のらーめんの特徴は他店に比べ、
①スープはややあっさり
②チャーシューがやや分厚くボリュームがある
③メンマは短く極太で炒め煮のように味付けされておりたまに焦げ目がある
④生玉子のトッピングが可能で二黄卵が使用されている
などといったところだろうか。

このうちメンマは現在の長さの三分の二から半分ぐらいだったように覚えている。

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2006年当時の好好の松

もうひとつこのお店が重宝されたのは、中休みなしの通し営業だったことである。
数年前に今の中休みがある営業スタイルとなったが、それまでは15時~18時のアイドルタイムにもらーめんを食べることが出来た貴重なお店だったのだ。

休憩なしのスタイルから休憩ありのスタイルに変わったのもひとつの前兆だったのだろうか、ご夫妻はこの12月30日で40年間の営業にピリオドを打つ。

その情報を聞いて12月に入ってまもなくとりあえず食べに行ってきた。

焼豚メンマ大入りの寿の麺大盛りを注文。 

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しみじみと美味い。
やや塩気のある焼豚、少し焦げ目が付いたメンマ、むにゅもちっとした麺、薄いようでしっかりしたベースのスープ。
全てが愛おしい。
好陽軒同様に、ここでも会計を終えて店を出るときに「またどうぞ」と声をかけてくれる。

食べ納めのつもりで来たのだが、その声に後ろ髪を引かれる。

四十年間おつかれさまでした。
しみじみと美味しいらーめんをありがとう。

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好来系という名古屋ラーメン ~さようなら、好好(1)

あまり全国的に知られていないのだが、名古屋には「好来系」というご当地麺がある。
昭和30年代に創業した屋台から始まった「好来」というお店をルーツとするラーメン屋の系統である。

大久手の屋台から始まった「好来」は、紆余曲折を経て現在も千種区春岡の地で「好来道場」という名で続いているが、既に亡くなった創業者の楓氏の元で修行したお店、あるいはそのお弟子さんの店で修行した店(つまりは孫弟子)、レシピを買った店、さらには正式な弟子関係にはないが同様の内容のラーメンを出している店もあり、それらを総じて「好来系」と呼んでいる。

弟子筋の店で現在の代表格となるのは、丼からはメンマしか見えないメンマ山盛りラーメンで全国区テレビにも何度か登場した「好陽軒」であろう。

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好陽軒のスペシャルメンマ

そのメンマ山盛りラーメンはビジュアル的にも強烈なのだが、「好来系」のラーメンの特徴はもっとシンプルだ。

根菜と鶏ガラ豚骨等動物系を煮出したあっさりスープで、別名「薬膳ラーメン」とも呼称されているのだが特に漢方食材とかが使われていることでもなく(卓上に高麗人参酢はあるが)、スープそのものが身体に良いという主張であるようだ。

基本がチャーシュー麺であるというのも特徴のひとつでそこそこ大判のロールチャーシューが四枚(店によって異なる)のる。

そして図太い食べ応えのあるメンマが何本か添えられる。
麺は中太のやや黄色い麺。以前は島田屋製麺という製麺所のものが一括して使われていたが十数年前に廃業してしまったので、各店舗がそれに近い麺をそれぞれ別の製麺所に発注している。

この系統のラーメンの特徴を文章で伝えるとこのようなことになる。ラーメン自体以外の特徴もいろいろあるのだが、長くなるので今回はそれを割愛する。

だが、食べてみるとこの味を食べたことのない人にどのように伝えればいいのかよくわからない。
あっさりはあっさりなのである。醤油が立っているわけでもなければ、煮干しがガツンと来るわけでもない。店によって差はあるけれども、普段味の濃いものを好んで食べている人にとっては「あまり味がしない」と感じることもあるかもしれない。
一度食べただけではその美味しさがわかりにくいラーメンなのだ。

もう一方の名古屋のご当地ラーメンである「台湾ラーメン」とは真逆にあるといってもいい。あのインパクトとはまったく対照的なラーメンなのである。

県外からこの「好来系」のラーメンをわざわざ食べにくる人の話はあまり聞かない。
全国的なラーメン特集でもほとんど取り上げられることはない。
それでも地元では何度もリピートをする人が大勢いる、出来て何十年も経っても固定ファンがしっかり付いているラーメンなのである。

そんな「好来系」のうちの老舗の一店舗が本年中でその長い営業を終えることになった。

『八事らーめん 好好』がその店である。

(つづく)

阿部和重『オーガ(ニ)ズム』

阿部和重の新作『オーガ(ニ)ズム』を読んだ。

ハードカバー800頁越えの重量級。章立てがないので、余白なくぎっしり詰まっている。ただ今回の文体は割とエンタメ寄りでしかも会話部分も多いのでグイグイ読めるには読める。

とはいえ、正直今回時間かかった。読み始めるとグイグイ進むのだが、一度本を置いてしまうと次に手に取るまでのインターバルが空いてしまって進まない。

これは主に自分の読書力(および集中力)の衰えによるものであるとは思っている。内容自体は印象深く楽しく読めた。しかしこれだけの長さが必要であったかはやや疑問かも。冗長といえば冗長。でもそこを楽しむべきといえば、そうでもあるんだよね。

これまで阿部和重は割と結構きちんと読んできている。

読書記録を見てみると2000年代後半に初期作をまとめて読んだ後、『ピストルズ』が出るのに合わせて2010年の1月に『シンセミア』、2月に『グランド・フィナーレ』を読んで3月の出版に備えている。

で、2作ほど間が空いて、5年前に伊坂幸太郎との競作『キャプテンサンダーボルト』もちゃんと楽しく読んでいる。

当時の記憶を思い起こすとトリロジー第一作の『シンセミア』は結構好みだったけども第二作『ピストルズ』はいまひとつの印象だったような。

今回の第三作『オーガ(ニ)ズム』との関連でいうと、どうも「神町サーガ」そのものは好きだが、その中核をなす「菖蒲家」自体の話にあまりノれないっぽい。

ピストルズ』は「菖蒲家」中心の話だったから、ノリ切れなかったようだ。『オーガ(ニ)ズム』では再び背景要素になったものの、どうも個人的にその話が出てくる辺りで躓いている。どうにも「一子相伝の秘術」と相性が悪いw。

主人公というか狂言回しの「阿部和重」とCIA調査官の「ラリー・タイテルバウム」のやりとりは日本とアメリカの関係を直喩的になぞっていて、滑稽かつ深刻なそれでいて愛すべきバディ関係を表現していてそちらの方は楽しく読めた。

映画を始め細かいネタがたくさん詰め込まれているし、トリロジーの他作品の記憶を呼び起こす作業も必要とされるし(そこはそれほど気にしなくても楽しめるが)、終盤の展開はなかなかぶっ飛んでるし、楽しくも疲れる読書体験であったが今年の大きな注目作のひとつであることは間違いない。

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オーガ(ニ)ズム

オーガ(ニ)ズム