阿部和重『オーガ(ニ)ズム』

阿部和重の新作『オーガ(ニ)ズム』を読んだ。

ハードカバー800頁越えの重量級。章立てがないので、余白なくぎっしり詰まっている。ただ今回の文体は割とエンタメ寄りでしかも会話部分も多いのでグイグイ読めるには読める。

とはいえ、正直今回時間かかった。読み始めるとグイグイ進むのだが、一度本を置いてしまうと次に手に取るまでのインターバルが空いてしまって進まない。

これは主に自分の読書力(および集中力)の衰えによるものであるとは思っている。内容自体は印象深く楽しく読めた。しかしこれだけの長さが必要であったかはやや疑問かも。冗長といえば冗長。でもそこを楽しむべきといえば、そうでもあるんだよね。

これまで阿部和重は割と結構きちんと読んできている。

読書記録を見てみると2000年代後半に初期作をまとめて読んだ後、『ピストルズ』が出るのに合わせて2010年の1月に『シンセミア』、2月に『グランド・フィナーレ』を読んで3月の出版に備えている。

で、2作ほど間が空いて、5年前に伊坂幸太郎との競作『キャプテンサンダーボルト』もちゃんと楽しく読んでいる。

当時の記憶を思い起こすとトリロジー第一作の『シンセミア』は結構好みだったけども第二作『ピストルズ』はいまひとつの印象だったような。

今回の第三作『オーガ(ニ)ズム』との関連でいうと、どうも「神町サーガ」そのものは好きだが、その中核をなす「菖蒲家」自体の話にあまりノれないっぽい。

ピストルズ』は「菖蒲家」中心の話だったから、ノリ切れなかったようだ。『オーガ(ニ)ズム』では再び背景要素になったものの、どうも個人的にその話が出てくる辺りで躓いている。どうにも「一子相伝の秘術」と相性が悪いw。

主人公というか狂言回しの「阿部和重」とCIA調査官の「ラリー・タイテルバウム」のやりとりは日本とアメリカの関係を直喩的になぞっていて、滑稽かつ深刻なそれでいて愛すべきバディ関係を表現していてそちらの方は楽しく読めた。

映画を始め細かいネタがたくさん詰め込まれているし、トリロジーの他作品の記憶を呼び起こす作業も必要とされるし(そこはそれほど気にしなくても楽しめるが)、終盤の展開はなかなかぶっ飛んでるし、楽しくも疲れる読書体験であったが今年の大きな注目作のひとつであることは間違いない。

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オーガ(ニ)ズム

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